前回、急激な人口減少社会という環境変化に対して多くの企業が、どのような対策や人材確保の取組みを行っているのか?そして、その対策や人材確保の取組みは適切なのか?効果を発揮しているのか?を見てきました。
一言でいうと、中長期的な視点に立つと、かえって企業の存続が危うくなる取組み方となっており、その効果には疑問があります。
本当の離職理由
詳しい理由については前回をお読みいただくとして、今回は、どうすれば外発的動機づけや衛生要因*1と比較して効果が持続する内発的動機づけや動機付け要因*2を高めることができるのか?をデータを踏まえてみていきます。
まずは、改めて離職理由を見ていきます。
上記の退職理由のうち、動機づけ要因と関係している退職理由は、「仕事の内容に興味を持てなかった」と「能力・個性・資格を活かせなかった」の2つです。
また、退職理由2位の「職場の人間関係が好ましくなかった」は、外発的動機づけであり衛生要因に分類されますが、「仕事の内容に興味が持て」「能力・個性・資格を活かすことができた」ならば、通常「職場の人間関係の半分は好ましくなるはずです。*3」
それでは、これらの退職理由に対して、どのような施策を行うことが効果的なのでしょうか?
キャリアコンサルティングの効果
ここで見て欲しいのが、厚生労働省の 「令和4年度能力開発基本調査結果の概要」です。
キャリアコンサルティングを行った結果、45%以上の社員が「仕事への意欲が高まった」と回答し、「自己啓発する社員が増えた」(正社員36.0%、正社員以外33.3%)や「新入社員・若年労働者の定着率が向上した」(正社員17.1%、正社員以外12.5%)だけでなく、「メンタルヘルス上の理由による長期休業等が減った(または職場復帰が進んだ)」(正社員9.8%、正社員以外10.4%)という回答が続きます。
これらのデータを踏まえると、「社員の賃金を上げ、募集賃金を引上げ」(72.5%)、「ワークライフバランスの推進(残業時間の削減等)」(38.1%)と並行して、キャリアコンサルティングを行うことで、社員の不満足を低減させるとともに、社員の仕事への満足度を高め、仕事に対して前向きになれ、加えて「達成すること」「成果をあげること」「評価されること」「責任を果たすこと」「昇進すること」「成長すること」への意欲を高めることができます。
これにより効果が持続する人材確保の取組みが可能となります。
あらためてキャリアコンサルティングとは?
キャリアコンサルティングとは、社員一人ひとりとの継続的な対話等を通じて、仕事への意欲を高め、社員一人ひとりの能力開発やスキルアップの支援を行うと同時に、能力・スキルや経験、価値観や興味関心などをもとに、一緒に理想とするキャリア*4を考えます。
具体的には、社員(相談者)のこれまでの仕事のみならず、人生そのものを振り返り、自分自身の適性、これまでに身につけてきた能力やスキル、大切にしている価値観などを整理します。
自分自身について振り返り、整理する時間を持つことで、今後の目的や目標、その実現に向けての課題が明確になり、達成への意欲が向上します。
このような「自分への気づき」を支援する個人ミーティング*5のことをキャリアコンサルティングといいます。
キャリアコンサルティングを実施することで、社員自らが考え、気づき、行動する力が身につき、自らの力で前に進み続けることができるようになります。
自分に期待されている役割や行動に気づき、理解できると、これから磨く能力やスキルを自ら獲得して成長していきたいという意欲につながります。
また、キャリアコンサルタントには守秘義務が課されているため、社員は、他では話すことができないような内容をキャリアコンサルタントに話すことが可能となり、その結果、社内のメンタルヘルス対策として、問題の早期発見や問題が顕在化する以前に対応することができるようになります。
*1:「仕事上の不満足につながる要因」のこと。具体的には、給与や福利厚生、経営方針、職場の環境、人間関係などが挙げられます。なお、衛生要因である不満な部分を改善したとしても、社員の満足度が高まるわけではありません。
*2:「仕事上の満足につながる要因」のこと。あればあるほど仕事に対して前向きになれ、仕事そのものだけではなく、「達成すること」「成果をあげること」「評価されること」「責任を果たすこと」「昇進すること」「成長すること」への意欲が高まる要因
*3:多くの場合、仕事の内容に興味が持てず、自分の能力・個性・資格を活かすことができていないから、職場で浮く、職場で評価されないといったことがおこり、職場の人間関係も好ましくなくなります。仕事の内容に興味が持て、自分の能力・個性・資格を活かすことができていると感じているなら、人間関係における自分側の問題、つまり問題の半分はほとんど解決しています。
*4:ここでいうキャリアは、単に仕事や職業を意味するものではなく、仕事を含む人生そのもののことです。
*5:1on1ミーティングをイメージしてください。