理論と実践

知の創造と智慧の実践プロセス

好きなようにしてください/楠木健

本書は、経済情報に特化したニュース共有サービス「Newspicks 」における「楠木教授のキャリア相談」をベースに書籍化されたものです。

一見不真面目に見えるかもしれませんが、キャリアコンサルタントやキャリアコンサルタントを目指している方に、是非読んで欲しい書籍です。

 というのも、いわゆる「キャリア相談」と「キャリアコンサルティング」や「キャリアカウンセリング」が、どのように違うのかを意識して読んで頂くと、とても有益だと思うからです。

そして、「キャリアコンサルティング」や「キャリアカウンセリング」という視点から、クライエントへの質問を考えたり、クライエントの内的準拠枠を理解するために役立つことは多いです。特に、経営学的な視点を踏まえてキャリア考えると、どうなるか?そんなことが、とても面白く学べる1冊です。

 

 

1.著者

著者の楠木健さんは、一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻の教授で、競争戦略が専門です。楠木教授の書籍では、『ストーリーとしての競争戦略』が有名です*1
内容はキャリア相談なので、様々な読者からのキャリアに関する相談に楠木教授が回答するというものです。

 

2.キャリア相談の結論の9割は

 「好きなようにしてください」

回答の最初に示される結論は、「好きなようにしてください」で始まります*2

どんな相談にも*3、「好きなようにしてください」という結論なのですが、だからといって、適当な(いい加減な)回答をしているわけではありません。

経営学的な視点からは、非常に理にかなった、適切な回答していると思います。
そして、これらの回答には、一本筋の通った楠木教授の次のような仕事に対する価値観があります。
 

3.仕事に対する価値観

楠木教授は、仕事の原則として、次の10か条をあげています。

  1. 「仕事と趣味は違う」の原則
  2. 「自己評価はなしよ」の原則
  3. 「客を選ぶのはこっち」の原則
  4. 「誰も頼んでないんだよ」の原則
  5. 「向き不向き」の原則
  6. 「次行ってみよう(ただし、近場で)」の原則
  7. 「自分に残るの過程」の原則
  8. 「仕事の量と質」の原則
  9. 「誘因と動因の区別」の原則
  10. 「無努力主義」の原則

どの原則も楠木教授の説明を読まないとその真意や意図を理解することは難しいので、興味を持たれた方は是非ご一読頂きたいと思いますが、少しだけここで補足説明を。

2.「自己評価はなしよ」の原則とは、「仕事はアウトプットが全て」というものです。しかも、アウトプットのうち、「成果」と言えるのはお客さんが評価するものだけ、という考え方です。

しかし、3.「客を選ぶのはこっち」の原則のとおり、誰のためにする仕事か?という目的、ターゲットを明確にし、自ら選択する、ことは重要だと言います。いかにも、競争戦略を専門とする経営学者らしい視点です。

4.「誰も頼んでないんだよ」の原則とは、目的、ターゲットの選択から、仕事のやり方から何から何まで仕事の根幹にあるのは自由意志であり、仕事は、本当のところは誰からも頼まれていない、強制されていないものである、という考え方です。従って、仕事が成果につながらないときに、他者や環境や制度等のせいにしない、というスタンスにも繋がります。

6.「次行ってみよう(ただし、近場で)」の原則とは、向いていないことが判然としたら、さっさと別のことをやりましょう、ということです*4ただし、だからといってゼロからやり直したり大転換する必要はないといいます。何故なら、本当に向いてない方面には、そもそも手をつけていないから。そして、次に行くべきところは意外とそれまでやっていたことの近所にある、といいます。

なお、本原則における「近場」の意味ですが、世間一般でいうところ「近場」や常識的な意味での「近場」である必要はない、と個人的には、理解しています。それよりも、一見、遠そうに見えて、実は「近場」だったみたいな、発想の転換があった方が面白いし*5、それが個性になる可能性が高いように思います。

4.志事(=Lifework)の見つけ方

この10か条の最後に、「10 「無努力主義」の原則」というものがあります。そして、これは、志事(=Lifework)を創り上げる過程でとても重要な要素だと思います。

楠木教授は、質量ともに一定水準以上の「努力」を継続できるとすれば、その条件はただ一つ、「本人がそれを努力だとは思っていない」ことだと言います。この状態で継続できることを「無努力主義」と言っています。

仕事は、誰も頼んでないし、向き不向きがあります。
仕事には、外部環境における誘因だけでなく、自分の内面から湧き出る動因が必要です*6
そして、たとえ、次行ってみよう(ただし、近場で)、だとしても、最後は、一定の分野や目標において、質量ともに一定水準以上の「努力」を継続することが必要であり、そのためには、主観的に「努力しなきゃ」という状態ではなく、「努力」と感じずに継続できるようになる必要があるとします*7

仕事にやりがいを感じ、いきがいとなる志事を見つけるために、本当に必要な要素の一つだと思います。

5.まとめ

「無努力主義」の原則について、アプローチの仕方が異なるだけで、基本的には、「GRIT やり抜く力」と同じことを言っていると感じました。

楠木教授を文化系GRITまたは脱力系GRIT、Angela Duckworth教授を体育会系GRITまたは根性論系GRITと名付けたいところです。

*1:『ストーリーとしての競争戦略』 は、競争戦略を流れと動きを持った「ストーリー」として捉えて、競争戦略と競争優位の本質を考えるという書籍です。経営学初心者でも興味深く読める(結構長いけど・・・。途中で飽きるかもしれないけど。。。)有益な本です。

*2:私の記憶が正しければ、2箇所、「好きなようにしてください」で回答が始まらなかった相談がありました。そのうちのひとつは、「好きなようにしてはいけません」でした。

*3:上記2つの例外を除いて・・。

*4:つまり「ダメだこりゃ、次行ってみよう」ということ。

*5:人生面白そうだし、という希望的観測を込めて。。。

*6:心理学でいう「内発的動機付け」ですね。

*7:どちらかと言うと、私が本文で書いたような『能動的に「努力」と感じずに継続できるようになる。』というよりも、『受動的に「努力」と感じずに継続できることをする。』というお考えと理解した方が正確かもしれません。