理論と実践

知の創造と智慧の実践プロセス

セルフケアの道具箱/伊藤絵美

クライアントが何らかの悩みや苦しみ、問題から回復する。

ここでいう「回復する」とは、どういうことなのでしょうか?何をもって「回復した」と言うのでしょうか?

本書では、「セルフケア」が上手にできるようになること、つまり「自分で自分を上手に助ける」ことが「回復する」ことであるとして、ストレスと上手につきあうための100のワークを紹介しています。

ストレスがたまって苦しい、人間関係で悩み疲弊している、先行きが不安で眠れない・・・という方から、常に自分自身を自分で助け、より幸せに生きて行きたい方におすすめです。

 

 

1.著者

著者の伊藤絵美さんは、洗足ストレスコーピング・サポートオフィスの所長さんで、カウンセリング歴30年の心理カウンセラー(臨床心理士・公認心理師)です。

伊藤さんは、ストレスマネジメント、認知行動療法、コーピング、マインドフルネス、スキーマ療法などを専門にしており、これまでに蓄積された知識と長年の経験に基づいた具体的な考え方と手法がストレスと上手につきあうための100のワークとして、惜しみなく本書で紹介されています。

2.実証研究を通じて効果がある「セルフケア」

「セルフケア」とは、「自分で自分を上手に助ける」ことであり、その結果、「回復する」ことです。

回復するための具体的な考え方と手法は、ストレスマネジメント、認知行動療法、コーピング、マインドフルネス、スキーマ療法などの専門領域において、実証的に研究され、エビデンス(証拠)があるものが100のワークとして採用されています。

伊藤さんの経験に基づいて「効果があった」というだけでなく、実証研究を通じて「効果がある」と広く認められているものです。

このように本書で紹介されているワークは、専門的な理論に裏付けられているものですが、専門用語はほとんど使われておらず、平易な言葉とシンプルな文章、そしてかわいらしいイラストでワークが紹介されており、しんどいときでも読める本です。 

3.カウンセラーとワークブック

本当にしんどいときは、このようなワークブックを一人で行うことで本当に効果が得られるのか?と疑問に思うのも無理はありません。

この点についても、実は、認知行動療法については、カウンセラーと一緒に取り組む場合と、ワークブックうあインターネットを通じて取り組む場合とで、さほど効果に差はなく、どちらでもしっかりと取り組めば高い効果が同等に得られることが複数の研究で報告されています。

もちろん、プロのカウンセラーとカウンセリングを受けた場合と、一人でワークブックを行う場合とまったく同じということにはならないと思います。

ただ、カウンセリングを受けるためにかかる時間(移動時間を含む)やお金など様々なことを考えると、本書(1,760円)を買うお金と、すき間時間に自分の都合に合わせてワークを行うことで、自ら「回復」できるようなるワークブックの価値は、相当に高いものです。

4.「セルフケア」=「自分一人で頑張る」ではない。

『自立とは依存先を増やすこと 希望は、絶望を分かち合うこと』

「セルフケア」とは、「自分で自分を助けること」ですが、それは決して「人の助けを借りず、ひとりっきりで、自分を助けましょう」ということではなく、私たちは互いに頼り、頼られる関わりの中でこそ、自立して生きていける、と著者の伊藤さんは言います。

そして、重要なのは、今、誰かに頼ることではなく、

「頼れる人を探す」

「心の中で誰かを思い浮かべる」

「人間じゃなくてもいいから誰か(何か)と一緒にいる」

といった心理学的に「誰かとつながる」、少なくとも「心をひとりにしない」ことが重要だと言います。

そのために、「自分の心をひとりぼっちにしない」と心に決める、「自分は誰かに助けてもらうに値する」「自分は人に助けを求めてもいい」「誰か(何か)がきっと自分を助けてくれるはず」と心に決めるというワークを紹介しています。

このように紹介されているワークは、難しいものではなく、少しの時間があれば、行えるものです。本書は、読み物ではあるけれぼも、実践の書でもあります。是非、理論を実践して欲しいと思います。

5.まとめ

本書は、以下のとおり10章から構成されており、1章に10個のワークが紹介されています。各章は、回復への道筋を踏まえたものとなっており、クラアントの状況や発達に応じた構成となっています。本書のワークをはじめから行うことで、無理なく、より幸せに生きることができる仕組みになっています。

第1章 とりあえず、落ち着く
第2章 誰かとつながる
第3章 ストレッサーに気づいて書き出す
第4章 ストレス反応に気づいて書き出す
第5章 マインドフルネスを実践する(身体、行動、五感を使って)
第6章 マインドフルネスを実践する(思考、イメージ、感情に気づいて手放す)
第7章 小さなコーピングをたくさん見つけよう
第8章 生きづらさの「根っこ」と「正体」を見てみよう
第9章 「呪いのことば」から「希望のことば」へ
第10章 「内なるチャイルド」を守り、癒す


<評価>☆☆☆☆☆

「セルフケア」に関する専門的な心理学やカウンセリングの知識とスキルを一通り身につけ、自分で自分を上手に助け、より幸せになりたい人に。

セルフケアの道具箱

セルフケアの道具箱

セルフケアの道具箱

  • 作者:伊藤絵美
  • 発売日: 2020/07/10
  • メディア: Kindle版
 

*1:東京大学先端科学 技術研究センター 当事者研究分野 准教授  小児科医