理論と実践

知の創造と智慧の実践プロセス

ジョブ理論/クレイトン M. クリステンセン

『ジョブ理論』は、『イノベーションのジレンマ』で有名なクレイトン M. クリステンセン教授が、イノベーションを運任せから予測可能なものに転換するプロセスを理論として構築したものです。

このジョブ理論がどのような理論であるかを一言でいうと、「セグメンテーションから、顧客の本当のニーズは見つけられない。企業は、『顧客が片づけようとしているジョブ』を探すべきである。」というものです。

本書では、具体的な事例を多く取り上げて、企業が探すべき『ジョブ』とは何かについて説明しています。

が、『ジョブとは何か?』なかなかに難解です。

 

 

 

1. 著者

著者のクレイトン・クリステンセン(Clayton M. Christensen)さんは*1、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS) の教授であり、イノベーションに特化した経営コンサルティング会社であるイノサイトの共同設立者です。

『イノベーションのジレンマ』という破壊的イノベーションの理論を確立しています。


2. 何故『ジョブ』なのか?

クリステンセン教授は、本書において『ジョブ』を以下のように定義しています。

顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するために、それらを生活に 引き入れるというものだ。
この「進歩」のことを、顧客が片づけるべき「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」するという比喩的な言い方をしている。

概念的、かつ、比喩的であり、一読して理解するのは難しいですね。

ジョブ理論を理解するためには、『ジョブ』という英語の本質的意味から理解する必要があると思います。

『ジョブ』=”Job”とは、

    1. the regular paid work that you do for an employer.
    2. something that you are responsible for doing.
    3. a particular thing you have to do, considered as work.

いわゆる仕事には、”Calling” "Career" "Job" の3つがあると言われています。

つまり、Jobには、収入(何か)を得るために仕方なくするが、できればしたくないこと、という意味が含まれています。

『ジョブ理論』におけるジョブには、この意味が多分に含まれています。ある製品やサービスをお金を払って雇用(利用)した場合に、自分の代わりに仕事を片付けてくれるものかどうか?が重要な要素になります。

3. 『進歩』とは何か?

上記の『ジョブ』の定義と併せて、『ジョブ』であるものの要素として、以下の5つがあげられています。

  1. ジョブとは、特定の状況で人あるいは人の集まりが追求する「進歩」である。
  2. 成功するイノベーションは、顧客のなし遂げたい進歩」を可能にし、困難を解消し、満たされていない念願を成就する。また、それまでは物足りない解決策しかなかったジョブ、あるいは解決策が存在しなかったジョブを片づける。
  3. ジョブは機能面だけでとらえることはできない。社会的および感情的側面も重要であり、こちらのほうが機能面より強く作用する場合もある。
  4. ジョブは日々の生活のなかで発生するので、その文脈を説明する「状況」が定義の中心に来る。イノベーションを生むのに不可欠な構成要素は、顧客の特性でもプロダクトの属性でも新しいテクノロジーでもトレンドでもなく、「状況」である。
  5. 片づけるべきジョブは、継続し反復するものである。独立したイベントであることはめったにない。

『ジョブ』を理解するために、特に重要なのは、『進歩』と『状況』です。

まずは、『進歩』ですが、これも『ジョブ』と同様に、原著の"progress"という英語の本質的意味から理解する必要があると思います。

『進歩』=”progress”とは、

    1. the process of getting better at doing something, or getting closer to finishing or achieving something.
    2. slow or steady movement somewherre.
    3. change whiich is thought to lead to better society, because of developments in science or fairer methods of social organization.

『進歩』と聞くと、3. の意味を思い浮かべることが多いと思いますが、ジョブ理論における『進歩』="progress"は、1. の意味に近いです。

実際、本書では、プロセスを非常に重視しており、上記5. のとおり『ジョブ』は継続し、反復するものであることが多いと考えています。*2

4. 『状況』とは何か?

さらに、ジョブを正確に理解するためには、解像度の高い「状況」を理解する必要があります。

ジョブは、それが生じたある特定の 文脈においてのみ定義することができるものだからです。そして、有効な解決策もある特定の文脈においてのみ、最大限の効果を発揮します。

ジョブを正確に理解するためには、次のような「状況」に関する問いが重要になります。

  1. 「いまどこにいるか」
  2. 「それはいつか」
  3. 「誰といっしょか」
  4. 「何をしているときか」
  5. 「 30 分前に何をしていたか」
  6. 「次は何をするつもりか」
  7. 「どのような社会的*3、文化的、政治的プレッシャーが影響を及ぼすか」

この他にも 「状況」には、例えば、ライフステージ(学校を卒業したばかりか、中年期の危機に陥っているか、もうすぐ定年か)や、家族構成(既婚、未婚、離婚?乳幼児が家にいるか、親の介護が必要か)、財政状態(債務過多? 超富裕層?)なども含まれます。

『ジョブ』すなわち、なし遂げたい進歩の性質は、ある特定の『状況』に強く影響されます。そのため、解像度の高い「状況」を理解し、ジョブ定義した後に、その解決策を検討することが、イノベーションを運任せから予測可能なものに転換する重要なプロセスになります。

5.『ジョブ』でないもの

これまで見てきたとおり、『ジョブ』を定義するために、『進歩のプロセス』であると考えて、ある特定の『状況』を理解することが重要となります。

そのため、以下のようなプロセスを経て『ジョブ』を定義します。

  1. その人がなし遂げようとしている進歩は何か?
  2. 苦心している状況は何か?
  3. 進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か?
  4. 不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか?
  5. その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か?
  6. その解決策のために 引き換え にしてもいいと思うものは何か?
  7. その解決策により進歩を遂げると、顧客は、社会的、感情的、機能的な側面において、どのようなメリットを得ることができるのか?

もちろん、ジョブ理論も理論である以上、限界があります。

例えば、消費者がさほど困っていなかったり、すでに存在している解決策で充分に用が足りているときには、ジョブ理論はあまり役に立ちません。

また、商品取引のように、ほぼすべてが数学的分析によって決定される場合にも有益ではありません*4コストや効率は、ジョブ理論でいうジョブにとって中核をなす要素ではないからです。

『ジョブ』とは、進歩のプロセスを歩み、目的を遂げるための社会的、感情的、機能的側面をとり混ぜた複雑なニーズがある場合に、『ジョブ理論』が機能します。*5

 

<評価> ☆☆☆☆☆

スタートアップや新規事業事業開発など、イノベーションの創出に関わる人にとって。

*1:1952年4月6日 - 2020年1月23日

*2:『状況』を理解する際にも、ある文脈における顧客の一連の行動として、そのプロセスを考えます。

*3:ここで言う「社会的」とは、主に、人間関係などの社会的関係性のことだと思います。

*4:合理的な意思決定で、コンピューターがあればたやすく解決できるようなときもジョブ理論は有益ではありません。

*5:特に、社会的、感情的な側面が重要です。