情と理のシンセシス

SYNTHESIS OF HUMANITY & THEORY.

いのちの再建弁護士/村松謙一

新型コロナウイルス感染症が再拡大してきました。

このままですと、また緊急事態宣言が発令されかねません。どこまで休業要請されるのか、時短だけになるのか分かりませんが、2度目の緊急事態宣言の経営へのインパクトは大きいと言わざるをえません。こらえきれない企業も多くなりそうです。

「倒産は、命の問題だ。」

「企業救済は、人間の尊厳を守ることだ」

と著者の村松謙一弁護士はいいます。

 

2016年 8,164件

2017年 8,376件

これは帝国データバンクによる、倒産した会社の件数です。この件数から本書ははじまります。

不況が続くなか、ダメな会社はどんどん潰した方がいい。

最近、改めて話題となっているこの見解に対して、著者の村松謙一さんは、

100%間違いであると私は思っている。会社は潰してはいけない。*1

といいます。

 

 

1.著者

著者は、企業再建を専門とする光麗法律事務所の村松謙一弁護士です。企業再建弁護士とは、倒産の危機に瀕している会社を、法律による防御と改革を行うことによって蘇らせる存在です。村松さんによれば、企業再建を専門にしている弁護士は全国でも数十人ほどしかいいないと言われているそうです。

村松さんは、2007年1月11日の「プロフェッショナル仕事の流儀 どんぞこの会社よ、よみがえれ」で紹介された弁護士です。

2.どんな会社も再建しなければならない

村松さんは、「会社は潰してはいけない」と言います。

なぜなら会社は、人と人が詰まったひとつの有機体であるからだ。

そこには一人ひとりが生きている。人生の営みがある。従業員には家族があり、その子どもたちが育っている。

ひとつの会社の倒産は、彼らの暮らしのと心の破綻を起こし、さらに関係者の人々にも犠牲をしいることになる。 

関係者のなかには、取引先もいれば、金融機関もいます。

再起し、再建した会社は、その会社自身を、取引先を、金融機関を、そして関係する人々を助けることができます。

ステークホルダーが債権放棄をすると一時的に債権放棄したステークホルダーには痛みが生じます。しかし、その後、会社を安定的に再建させることができれば、中長期的にはステークホルダーの利益になります。

そして、何よりも、「会社の倒産は、命の問題」であり、「企業を救うことは人間を救うこと」と村松さんはいいます。

企業再生に携わるものにとって、とても大事な仕事観、人生観です。 

3.99%ダメと言われても、私は諦めない

村松さんは、「法を犯していない限り、原則、会社は再建できる。」といいます。

99%はダメでも1%の可能性があると考えられれば、「再建の見込みあり」とすべきだ。

たとえ、1%でもチャレンジする価値はあるし、捨てる神あれば拾う神ありで、思わぬところから救世主が登場することもある。

「だから、再建すべきかどうかで悩む必要はありません」

村松さんからこのように言ってもらった経営者は救われた気持ちになりますね。

村松さんが手がけた会社再建の成功率は、98~99%だそうです。成功の鍵は、人のマインドだと言います。

多くの企業の再生を手掛けていると、会社の 再建は決して数字だけが決めるものではないことをつくづく感じる。

計算上の利益・収益の見通しといった客観的要素がどうであっても、最後の決め手は経営者や従業員のやる気という主観的な要素にかかっている。そして、法律よりもこちらの要素の方が倒産を回避する力は大きいと思う。

少しでも道筋がつけられると、会社の人たちは、こちらが驚くほどの頑張りを見せる。

99%ダメと言われても、1%の可能性があれば諦めない、という支援者の気持ちは大事です。

支援者のやる気、粘り、負けん気、勇気が経営者と従業員の気持ちを動かします。

絶望の中の希望に最初に灯をともす支援者の存在が未来を拓く最初の一歩になると思うと、とても重要な役割を支援者は担っています。

4.企業再生こそ日本の再生

「会社を再生させる」ということは、人のつながりを復活させ、「共生の絆」を深めていくことである。

それは、「日本の再生」につながる。

企業再生の精神には、混沌とした閉塞感の漂う今の日本にとって忘れてはいけないことが数多くあると思う。

大企業が倒産すると経済への影響が大きいとして、潰すことに消極的な意見が多いように思いますが、中小企業が倒産することは経済への影響が小さいとして、特に生産性が低い中小企業は淘汰すべきという意見に一定の支持が集まっています。

しかしながら、日本の中小企業・小規模企業は全企業数の99.7%である357.8万者あり、従業員数は全就労人口68.8%を占めます。*2

大多数を占める中小企業は、バブル経済崩壊後、いわゆる系列が失われていくなかで、中小企業は独自の取引ネットワークを構築しています。また、異業種も含めて連携強化が図られ、複雑なエコシステムが構築されています。

さらに、地方における企業は、生活の基盤を提供するとともに、その地域で暮らす人々の働く場となっています。

生産性とは何か?何故、生産性があがらないのか?すべての中小企業が生産性を上げなければならないのか?これらのことを真剣に検討せず、安易に生産性の低い中小企業を淘汰し、ビジネスエコシステムを壊してはいけません。

5.まとめ

本書では、2017年までの帝国データバンクの倒産件数が記載されていますが、2018年以降は、次のような数字なっています。

2018年 8,063件

2019年 8,354件

2020年 7,809件

2020年の倒産件数7809件は、2000年以降で2番目の低水準。負債総額は1兆1810億5600万円は、2000年以降最小となっています。

これは新型コロナウイルス感染症の拡大期に様々な経済的な支援策があったからです。

人を救うのに理屈はいらない。まず、人間の復興だ。
目の前の海に溺れた人を救うのに、理屈も何もいらない。ただ飛び込むだけ。

2021年は、時間的な猶予を与えられた各企業の存在意義が問われる年であり、事業再生の専門家である支援者の真価が問われる年になりそうです。

 

<評価> ☆☆☆☆☆

事業再生に携わる人はもちろんのこと、全ての企業支援を行う人にとって*3

*1:厳密には、「村松さんは、法を犯していない限り、「原則、会社は再建できる」と言っています。

*2:平成28年(2016年)経済センサス

*3:今年読んだ本の中で、一番、涙なしには読めなかった本です。お勧めです。