新型コロナウイルス感染症が再拡大しています。感染者数だけで、4月のように緊急事態宣言が発令され、休業要請が始まるかは分かりませんが、新型コロナウイルス感染者数の拡大に伴い人々の行動は徐々に自粛方向に向かうことが予想されます。
改めて、新型コロナウイルス感染症再拡大時において、企業はどのようにサバイバルしていくのか考える必要があります。
本書は、新型コロナウイルス感染症の拡大という破壊的危機に直面した経営者が、どのように対処していくべきかを明らかにしており、危機(ピンチ)を機会(チャンス)に変えるきっかけを与えてくれています。
1.著者
株式会社経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEOの冨山和彦さんです。IGPIは企業再生プロフェッショナルファームで、冨山さんは、金融危機、リーマンショック、東日本大震災といった危機において、アドバイザー、ハンズオン(参画)型の経営者、取締役、経営スタッフ等としてグローバルな大企業のみならずローカルな中堅・中小企業の企業再生を請け負ってきました。
これらの経験を踏まえて、冨山さんは、グローバルな大企業向けの本だけでなく、ローカルな中堅・中小企業む向けの本も書かれています。
別の機会にご紹介したいと思いますが、冨山さんの中堅・中小企業向けの本としては、『IGPI流 ローカル企業復活のリアル・ノウハウ(PHPビジネス新書)』がお勧めです。
2.新型コロナウイルスショックの破壊的危機度
冨山さんは、今回の破壊的危機は、その広さと深さと長さにおいて、リーマンショックといった今までの危機を上回る破壊性を持っていると評価しています。
理由は、今回の危機は、感染症リスクに備えるために人々が様々な経済活動を控えたことから生じており、実体経済の悪化からスタートしているからです。
それも、L(ローカル)な経済圏の中堅・中小サービス業が、まずはじめに打撃を受けるとしています。
次に、G(グローバル)な経済圏の世界展開している大企業とその関連の中小下請け企業へと経済収縮の大波が襲います。
この段階で、新型コロナウイルスショックを受け損ねると、次は、金融システムが傷んで今度は金融危機のF(フィナンシャルクライシス)の大波が起きかねないとします。
このメカニズムを理解していることは、とても重要です。これを理解していることで、自社への被害の想定と適切な対策を講ずることができるようになるからです。
さて、このように新型コロナウイルスショックは、実体経済からはじまって、
『L → G → F』と3段階で、広範囲に、かつ、新型コロナウイルスのワクチンが開発されるか、ある程度確実な治療法が確立するまでの長さ、経済にも影響があります。
これに加えて、昨今の時代背景であるグローバル化とデジタル革命による破壊的イノベーション、産業アーキテクチャ(構造)の大転換が進行しています。
大きな産業やビジネスモデルが数年で消滅するような破壊的変化が同時に起きており、経営者は、同時にこれらに対応する必要があります。
3.危機対応の基本方針
本書で示されている危機対応の基本方針は以下のとおりです。
危機の経営の第一のメルクマール(指標)はなんと言っても生き残りである。同時により良く生き残る、すなわち危機が去った後に誰よりも早く反転攻勢に転じ、CX(Corporate Transformation)による持続的成長を連鎖的に敢行できるように生き残ることである。
過去、危機の局面をその後の持続的成長につなぐことに成功した企業は、危機の克服や事業再生、すなわち、TA(Tuen Around)モードを引き金としてCX(Corporate Transformation)を展開した企業である。
まずは、生き残る。
それも良く生き残ることが必要としています。そうしないと、次の危機時に生き残ることが難しくなってしまうからです。*1
その上で、危機到来時に生き残ることができる企業の要件は、以下の3点だとしています。
2. と3. については、危機に遭遇してからでは、どうすることもできません。
2. については、こんな言葉もあります。
晴れの日に傘を貸して、雨の日に取り上げる。それが銀行だって。
ハゲタカ第2話より
確かに、銀行にこのような一面がないとはいいませんが、『晴れの日には挨拶もせず、雨の日にお金の無心にくるような経営者』よりも、『銀行とのコミュニケーションを定期的にとり、日頃から信頼関係の築けている経営者』に銀行(担当者)だってお金を貸したいと思うものです。
危機到来時に生き残れるかどうかは、平時の活動により、既に決まっているということですね。
仮に、生き残りは、平時の活動によりある程度決まってしまっているとしても、冨山さんは危機時にできること、やるべきことはあるとしています。
危機を予知・予測した際には、銀行をはじめとする金融機関等からできるだけ早く借りられるお金は、とにかく早め早めに、事態が悪化する前に徹底的に借りておく、あるいはコミットメントラインの上限を上げておくことである。
それで増加する金利や手数料なんて、企業の生き死にと比べれば無視できるくらいわずかな保険料である。
4.修羅場の経営者の心得
冨山さんは、これまでの「危機の経営史」や「臨床経験」から、修羅場の経営の心得を8つあげています。
「1. 想像力」「2. 透明性」「3. 現金残高」は、特に重要だと思います。
「1. 想像力」
今回の新型コロナウイルス感染症再拡大期は、相当状況が悪化するまで緊急事態宣言が発せられず、想定以上に感染が拡大し、社長や社員に感染者がでる可能性もあります。
社内に感染者がでた場合、どのように対処するのか、現時点での最新情報を踏まえて対応策を立案しておく必要があると思います。
「2. 透明性」
既に行っている経営者の方は多いと思いますが、改めて、キャッシュフローから会社に残された期間を社員に明示して、不安に向き合い、ある意味、開きなった状態で残された時間を最大限有効に活用する必要があると思います。
「3. 現金残高」
会社の突然死を防ぐために、日繰りでキャッシュフローを管理する必要があります。
その際には、直接の取引先の状況だけでなく、直接の取引先の取引先くらいまでは、できる限り情報を収集して、キャッシュの管理運用を行う必要があると思います。
また、冨山さんは、経営者の修羅場の「心得」の裏返しとしての経営者が陥りやすい修羅場の「べからず」集を以下のようにまとめています。
- 見たい現実を見る経営
- 精神主義に頼る経営
- 人望を気にする経営
- 衆議に頼る経営
- 敗戦時のアリバイ作りに走る経営
- 現場主義の意味を取り違える経営
- 情理に流される経営
- 空気を読む経営
基本的には、そのとおりかと思いますが、中堅・中小企業において、「3. 人望を気にする経営」は、少しは気にした方が良いと思います。「気にする」ということが良くないのであれば、「配慮」はした方が良いように思います。
確かに、危機や窮地においては、危機や窮地をリアルに脱する的確な判断力、行動力、胆力のありそうな人物に社員はついていくのであって、「いい人」や「人望のある人」について行くわけではないというのはそのとおりだと思います。ただ、「人望」はないよりあった方が良いです。何故なら、状況が悪くなっても、社員がすぐに逃げ出さず、最後まで社長と一緒に頑張るかどうかは、多かれ少なかれ、社長に人望があるか、社長が好かれているかにかかっていると思うからです。
また、「4. 衆議に頼る経営」については、「頼る」のは良くないことだと思います。
しかしこれは、「衆知を集め、活かす」ことを否定する趣旨ではないと思います。何故なら、「衆知を集め、活かす」ことは、社員が当事者意識を持ち自分事の仕事として取り組むために必要なことだと思うからです。
これらを踏まえて、冨山さんは、『悲観的・合理的な準備、楽観的・情熱的な実行』が大事だとしています。
おっしゃるとおりだと思います。例え、実際には、このようなことを行うのが難しいとしても、今はやるべきときかと・・・。
5.まとめ
<評価> ☆☆☆
今回のような危機に備える経営者向けの基礎的な本として、0.5刻みの細かい評価ができるなら、☆3.5くらいかと思います。
2020年4月7日に緊急事態宣言が発せられ、それから約1週間で本書が書き上げられたことを考えると、金融危機、リーマンショック、東日本大震災と危機に遭遇し、その危機に対応されてきた冨山さんの経験に基づいた知識やノウハウは参考になるところがあります。*2
ただ、危機(ピンチ)を機会(チャンス)に変える、もっとも重要なCX(Corporate Transformation)については、あまり具体的なことは書かれておらず*3、続編にあたる『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』に書かれています。*4
コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える
*1:金融危機、リーマンショック、東日本大震災と、原因はそれぞれですが、この30年の間、約10年おきにに、100年に1度と言われる自然災害を含む危機に遭遇しています。
*2:冨山さんが、既に各所で発言していたものや書籍で書かれていることと同じため、アフターコロナという観点から本書を購入すると期待にそぐわない可能性が高いです。
*3:基本的には、『経済危機に強いビジネスモデルは、基本的にリモートな方法でソリューションサービスをリカリング(繰り返し利用、定期購買利用)型で提供するビジネスモデルである。』としています。
*4:続編の『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』と合わせて評価するのが正しいかもしれません。