情と理のシンセシス

SYNTHESIS OF HUMANITY & THEORY.

「経営はサイエンス」への過剰反応

経営(マネジメント)は、サイエンスか?アートか?

良く聞く問いです。その結論は、両方必要というものが多いようです。

しかしながら、この問い自体が、多くの日本企業にとって、誤っているように思います。

 

問いに対する疑問

経営(マネジメント)は、サイエンスか?アートか?という問いをたて、その両方が必要という結論に至った後に、これまで多くの日本企業は、何故か、自分達に足りないものはサイエンスだと考えて、経営に関する分析的で計画的な知識を学びました。確かに、マネジメントにおけるサイエンスの学びが少なかった時代があり、一時期、その必要性があったことは否定しません。しかしながら、マネジメントにおけるサイエンスの習得に力を注ぎすぎました。

その結果、現在の多くの日本企業は、オーバーアナリシス(論理分析過多)、オーバープランニング(経営計画過多)、オーバーコンプライアンス(法令順守過多)となり、分析や計画に時間をかけすぎて、一歩も動けなくなってしまいました。*1

そもそも、経営(マネジメント)は、サイエンスか?アートか?という問いに対しては、

  1. 何故、経営(マネジメント)から、クラフトの要素を除いたのか?
  2. 何故、アートの要素は足りていると考えたのか?
  3. 何故、サイエンスが足りないと考えたのか?

という疑問があります。

経営(マネジメント)の3要素

1つ目の疑問について、ヘンリー・ミンツバーグ*2は、経営(マネジメント)は、アート、クラフト、サイエンスの3要素から構成されるとし、そのバランスが重要だとします。

アートはマネジメントに理念と一貫性を与え、クラフトは目に見える経験に基づいてマネジメントを地に足の着いたものにし、サイエンスは知識の体系的な分析を通じてマネジメントに秩序を生み出すものと定義されています。

経営(マネジメント)の要素として、サイエンスとアートの他にクラフトがあるにもかかわらず、サイエンスとアートの2者択一となっている点で、既に問いが誤っています。

何故、アートは足りていると考えたのか?

多くの日本企業にとって、現在、最も不足している経営(マネジメント)の要素は、アートだと思います。

しかしながら、これまで多くの日本企業がアートは不足していないと考えたか、むしろ、アートは不要と考えていたように思います。

理由は、①アートを直感という意味で捉えた場合、変化やリスクを好まない日本人には、これ以上根拠のない直感的な意思決定や行動は不要であると考えたから、②アートを辞書的な意味で捉え、芸術や美術と定義した場合、アートとビジネスを相反するものと捉え、むしろ、アートからビジネスを分離させたかったからだと思います。

アートをマネジメントに理念と一貫性を与える統合力と考えるとともに、理念を生み出す力であり、一貫性を与える美意識と考えると、現在の日本企業に足り合いものがアートであるという考え方に、納得して頂けると思います。

何故、サイエンスは足りていないと考えたのか?

ミンツバーグは、経営(マネジメント)は、かなりの量のクラフト、ある程度のアート、それにいくらかのサイエンスが組み合わさった実践の行為だとしています。

いくらかのサイエンスで良いとした理由は、経営(マネジメント)は、主に経験を通じて修得されるものであり、具体的な文脈と切り離すことができないからだとします。*3

つまり、経営(マネジメント)は、体系的な知識の学びのみで正解を導き出すことはできないため、全く不要ではないものの、いくらかのサイエンスで良いとしました。

むしろ、経営(マネジメント)を成功させるためには、サイエンス以上にアートの要素が必要であり、それにも増してクラフト(=経験、技)の要素が不可欠であり、アートは直感を通じた洞察やビジョンを生み出すものとして、クラフトの次に重要だとします。

ところが、何故か、多くの日本企業は、そのいくらかのマネジメントが不足していると考えました。

理由は、推測ですが、変化やリスクを好まない保守的な傾向が影響しているように思います。保守的な傾向から、経営はサイエンスであるというアメリカ流の経営に過剰に反応してしまったのではないでしょうか。このように考えると、知識の体系的な分析を通じてマネジメントに秩序を生み出すサイエンスを、日本人が好んで学んだことも理解できます。*4

日本企業に必要な経営(マネジメント)の要素

改めて、現在の日本企業に必要な経営(マネジメント)の3要素の優先順位は、①クラフト(=経験、技)、②アート(=直感、洞察、統合)、③サイエンス(分析)の順番ではないでしょうか。

アートの不足も大問題ですが、①クラフトの目に見える経験に基づいてマネジメントを地に足の着いたものにする力を磨き続け、十分な力を発揮できなくなってしまうことは、中長期的に日本企業の競争力を弱める原因になります。

『マネジャーの実像』

マネジャーの実像

マネジャーの実像

 

*1:正しくは、動いたように見せることが上手になってしまった企業が多いように思います。

*2:カナダのマギル大学デソーテル経営大学院のクレゴーン記念教授。マギル大学工学部機械工学科を卒業。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院にて1965年に経営学修士及び1968年に博士を取得。

*3:不要でも不可能でもないが、一般化・抽象化には馴染まないということです。

*4:世界的に見ると、日本人は、秩序が好きな民族です。