情と理のシンセシス

SYNTHESIS OF HUMANITY & THEORY.

あえて数字からおりる働き方/尾原和啓

支援先の経営者の方が「今の自分だからこそ、理解できる内容だと思う」と言って、ご紹介くださった本です。

本書のテーマは、「有り難うの意味」を忘れ、「数字のオバケ」に取りつかれやすくなった人生を自らの手に取り戻すです。

中小規模の企業の経営者の方だけでなく、新型コロナウイルス感染症が拡大し、あらためて「自分は何のために企業経営(仕事)をしているのか、これからどうしていけば良いのか」を考えたい方にお勧めです。

 

 

 

1.著者

2020年8月現在、シンガポールに拠点を置く藤原投資顧問株式会社のシニアアドバイザーである尾原和啓さんです。

『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』の著者として有名な方ですね。

マッキンゼーNTTドコモリクルート、ケイ・ラボラトリー(KLab)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google楽天、Fringe81、藤原投資顧問と12回の転職をされています。

本書は、これまで大きな会社に依存して仕事をし、生きてきた著者が、大きな会社への依存をやめ、あえて数字からおりて、ギブとつながりを大事にしながら自分を変えていった物語です。

人と企業が信頼関係を築きながら、仕事に応じて雇用関係を結ぶ、新しい働き方の実践について書かれています。

 

ITビジネスの原理

ITビジネスの原理

 

 

2.あえて数字からおりて、自分らしく生きるために

尾原さんの「これからの仕事観」は、以下の3点です。

 

  1. 肩書ではなく「あなたと仕事をする意味」が問われる時代
  2. 信頼に基づく「人間関係の数」が意味をもつ
  3. 世界で自由に働き結果を出す人は、GIVE(ギブ)による信頼関係を持っている 

 

これからの仕事は、会社がベースではなく「個人」が主体となって働くことで、人生を自らの手に取り戻すことできることを前提としています。

個人が主体となって働く場合、「あなた(あなたの会社)と仕事がしたい。」「あなた(あなたの会社)と仕事をすることに意味がある。」と思って頂くことはとても重要なことです。何故なら、選ばれるためのとても強い差別化要素になるからです。*1

そのためには、信頼に基づく質の高い人間関係を構築することが必要となります。

信頼に基づく質の高い人間関係を構築する具体的な方法は、与える行為=GIVE(ギブ)することであり、次の2つがあるとします。

 

1つは、自分の内側にある力で、人にありがたいと思われること。
2つ目は、相手の視点に立って、自分の外側にあるものに自分の想いをのせてギブすること。

 

尾原さんは、この2つ目のギブを重視します。

何故なら、相手を想い、相手に寄り添うことにより、自分自身が成長し、新たなアイデアを生み出せるようになり、さらに相手に喜ばれるギブを行うことができるようになるからです。

そして、相手の視点に立つ、つまり、今の自分にはない、相手の視野、視座、ものの見方、着想、価値観に基づいて与える内容を選び、与える行為に自分の想い、視点、視座、ものの見方や価値観を加えてギブすることで、いつしかギブされた相手から信頼を得ることができるようになります。

このギブが信頼に変わるサイクルを回すことで、信頼に基づく質の高い人間関係が構築されていくわけですね。

 

3.信用と信頼が最も重要な人的資本

尾原さんは、信用と信頼は貯金のように貯めることのできる人的資本であり、稼ぐために最も重要な資本だと位置づけています。

そして、信頼関係を構築する具体的な方法として、以下の3点をあげます。

 

  1. 自分が誰かから「有り難う」と言ってもらえるギブを繰り返す
  2. ギブを繰り返すことによって、特定の誰かにとっての「意味のある」存在になる
  3. 特定の誰かにとって「意味のある」存在になることを重ねていく

 

これらを行うことで、「意味のある自分」を見つけ、特定の人たちに呼ばれる「何者かになっていく」ことで、「稼ぐ」ことができるようになるとしています。

したがって、このようなサイクルを回すことが、個人がつながる時代の生存戦略だとしています。

 

信頼に基づく質の高い人間関係を築くためには、人を疑うことはとても無駄なコストです。

そもそも、信頼に基づく質の高い人間関係が築けていれば、性善説に立って仕事をすることが可能となります。

これは、個人事業主を含む中小規模の企業が中堅企業や大企業に勝る「スピード」を最大限活かすために、とても重要なことだと思います。

 

4.生きがいで食べていく 

最終的には、「生きがいで食べていく」、つまり「生きがい(好きなこと)」で「ギブ」して「稼ぐ」ことを目指しています。*2

そのため、まずは、生きがい(好きなこと)を見つけることが必要になります。

生きがい(好きなこと)を見つけるために、没頭できること、または「努力の娯楽化」*3ができることは何か?を自己の内面に向かって探していきます。

「努力の娯楽化」とは、努力が苦にならず、努力を続けられることです。

基本的には、自分の気持ちを見つめ、好きに気づくようにすることが重要ですが、内省に慣れていない場合は、遠くの異質な人とつながることで、自分を客観視し、好きなことや自分の強みに気づくという方法を提示しています。

また、好きなことを人から理解されようと思わないこと、最初から好きな仕事で「稼ぐ」ことにこだわらないことが重要だとしています。

人から理解されようと思ったり、『稼ぐ』にこだわると、本当に自分が『好きなこと』に気がつきにくくなるからです。

最初は、ライフワーク(生きがいを仕事にすること)とライスワーク(稼ぐための仕事のこと)を切り分けて考えても良い、としています。

 

自己の内面を見つめ直し、本当に好きなことを探す。

信頼に基づく質の高い人間関係が構築されるまでは、本当に好きなことをして稼ぐことにこだわらない。

大きな企業に勤めるサラリーマンが、複業や週末起業をしながら、無理なく生きがい(好きなこと)を稼げる仕事に高めていく。

トランジション(転機)の具体的な対応方法、そのものですね。 

 

5.まとめ

<評価> ☆☆☆☆

あえて数字(稼ぎ)から離れることで、巡り巡って数字(稼ぎ)につながる、本来ビジネスとはそうあるべきもので、これが当たり前の社会が実現するために役立つ良い本だと思います。*4

また、本書のあとがきには、好循環を生む「ありがとう」の重要性と、日本人は母親の価値観の影響を大きく受けているため、母親の価値観以外の価値観を知り、新たに自分の価値観を築きあげ、自己肯定感を高めることの重要性について触れています。

「ありがとう」の好循環と価値観の相対化は、人の好き嫌いを少なくし、人を信頼できるようになるための、とても重要な方法だと思います。*5

そして、信頼に基づく質の高い人間関係を多く持つことは、本当に豊かな人生をおくるために必要不可欠なものだと思います。

いくつになっても、自分にとっての本当の豊かさとは何か?を改めて考えるきっかけを与えてくれる良い本です。

*1:ブランドが目指している、「あなたから買いたい」「あなたでなければ、ダメ」と同じ目的です。

*2:

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*3:一橋ビジネススクール教授の楠木健先生の言葉です。

*4:渋沢栄一さんの『論語と算盤』を思い出しました。本書には「道徳経済合一説」と通じるものがあると思います。

*5:会社という組織から離れ、個人として仕事をしていくときに最初に失うものは、組織が守ってくれるという安心感です。個人で仕事をしていくためには、信頼に基づく質の高い人間関係を多く持つことが必要になります。そのためには、自ら人を信頼できるようになることが重要です。