情と理のシンセシス

SYNTHESIS OF HUMANITY & THEORY.

戦略は、死んだ

「戦略は死んだ」

刺激的なフレーズですが、そのとおりだと思う経営者の方は多いのではないでしょうか。

なかには、何をいまさら・・・と思う経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

戦略を考え、事業計画をたてても、これだけ大きく環境が変化してしまっては役に立たない。ここ30年の間に幾度となく、大きな環境の変化に遭遇した経営者であれば、そのように思うのも無理もありません。

さらには、戦略が死んでしまい、事業計画が無意味なものになってしまったのなら、組織も死んでしまうのでは?と思った経営者の方もいらしゃるのではないでしょうか?

何故なら、「組織は、戦略に従う」から。

 

仮に、本当に組織が従うべき戦略が死んだのなら、私たちは戦略や組織とどう向き合うべきなのでしょうか。

 

 

「組織は、戦略に従う」

「組織は、戦略に従う」は、アルフレッド・チャンドラー*1が、1962年に出版した「Strategy and Structure」という書籍の邦題です。

 

Strategy and Structure: Chapters in the History of the American Industrial Enterprise

 

「組織は、戦略に従う」は、組織は企業の経営戦略や事業戦略に基づいて構成すべきである、という意味だとされています。

従って、まずは戦略を立案することが重要ということになります。

 

組織は戦略に従う

組織は戦略に従う

組織は戦略に従う

 

 

「戦略は、死んだ」

「戦略は、死んだ」は、前回紹介した、株式会社経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEOの冨山和彦さんが書かれた『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』の続編、『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』において、次のように書かれています。

 

現実論として起きたことは、一つは今まで繰り返してきたように、その企業が持っている組織能力、組織構造では難しい戦い方が求められるので、正しい戦略は現実化しない、あるいは競争相手(典型的には新興企業)に劣る戦い方しかできない。

もう一つはいわゆる戦略計画の時間軸(概ね中期経営計画と呼応する3~5年くらいのタイムフレーム)よりも早いテンポで環境変化が起きるために、ナイスな戦略計画がすぐに大幅な見直しやピボットを迫られてしまう。結局、戦略作りに時間とエネルギーをかけてもあまりが意味がないのである。

 

結局、組織能力自体をもっとも重要な経営対象として、その可変性を大きくしない限り、持続的に競争優位を保つことは難しい時代に入っているのだ。今や現実の戦略は組織能力の従属変数であり、急速に変転を続ける最適戦略打ち続けられる組織能力を持っていることが真の競争優位の源泉なのである。

はっきり言おう。戦略は死んだのである。

もはや戦略は経営作用の主役にはなりえない時代なのだ。

 

つまり、環境の変化が激しいため、戦略を策定しても、競合に勝る形で実行できないか、戦略そのものが陳腐化しているため、戦略に合わせて組織を作ると、戦略以上に環境の変化に対応できない、時代遅れの組織になってしまうということです。

組織能力自体を環境の変化に対応できるようにするためにはどうすべきか。

その答えが、コーポレート・トランスフォーメーションである*2、というの冨山さんの主張です。

 

 

「戦略と組織の復活」

コーポレート・トランスフォーメーションの詳細は、冨山さんの『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』を読み頂くというのも良いと思いますが、戦略は組織が作り、組織が戦略を実行する以上、「組織は、戦略に従う」という言葉自体、チャンドラーの考えを正しく理解していない可能性はないのでしょうか。

 

チャンドラーは、次の3つの事例を紹介しています。

 

  1. 余剰人員活用による関連多角化
    デュポンの例をあげ、人や設備という余剰人員・資源を活用するため、世界で初めて事業部制を採用し、新規事業による多角化を行う。
  2. 事業部制による事業拡大・海外展開の促進と無関連多角化
    事業部制で成功したデュポンは、既存事業の経営資源を活用しつつ、さらに新規事業を事業部として立ちあげ、製品的な拡大と地理的な拡大を行う。
  3. 拡大した事業部のコントロール不全によるリストラクチャリング
    当初の事業部制は関連多角化でしたが、徐々に無関連な多角化が増え、次第に本社部門から事業部へのコミュニケーションとコントロールが失われ、事業部制が機能不全となり、全社的に事業の再構築を行う。

 

いずれも、事業部制という「組織」を起点に「戦略」が構築され、実行されています。

実は、チャンドラーが、 『Strategy and Structure』において本当に伝えたかったことは、単に「組織は戦略に従う」ということではなく、次のような内容だと考えられます。

 

  1. 事業戦略と組織戦略は深く関わり「組織は戦略に従う」も「戦略は組織に従う」のいずれのベクトルもある。
  2. 経営者にとって、戦略(事業ポートフォリオや事業戦略等)は変えやすく、組織は変えにくい。
  3. したがって、事業戦略に沿って組織戦略を立案・実行していく方が、実現度が高い。

 

今よりも環境変化のスピードが緩やかであった1960年代は、この考え方が時代に合っていたように思います。

しかしながら、環境変化のスピードの速い現代にあっては、冨山さんのいうとおり、「戦略は、死んだ」とみるべきでしょう。

少なくとも、戦略は死につつあります。

組織が従うべき戦略が死につつある今、私たちはどうすべきでしょうか?

やはり、冨山さんのいうとおり、チャンドラーが困難だと考えていた組織を変えることに手を付けざるをえないように思います。

 

死につつある戦略と組織を同時に復活させるカギは、「戦略は組織に従い、組織は戦略に従う」を深いレベルで双方向に行うことだと思います。

*1:1918~2007 / アメリカ、ハーバード大学の経営史学者。MIT、ジョンズ・ホプキンス大学、ハーバード・ビジネス・スクールで教授を務めていました。

*2:コーポレート・トランスフォーメーションとは、一言でいうと、日本的経営、日本的カイシャの対局なカタチとし、組織能力を身につけるということです。