情と理のシンセシス

SYNTHESIS OF HUMANITY & THEORY.

契約交渉のスタンス

新型コロナウイルス感染症拡大の影響が企業経営のあちらこちらにでている今日この頃、以前、ある企業の法務担当の方とお話をしたことを思い出します。

その方は「なるべく公平な契約条件となるように交渉することが、会社の方針である。」とおっしやっていました。

 

そのため、最初から一貫して公平な条件となるように、交渉をするそうです。

とりあえず自社に有利なドラフトを提示し、基本的に修正は不可と言ってから、交渉を開始するということはしないそうです。

このような交渉をすることのビジネス上のメリットは、お客様や取引先に中長期的にお付き合いしたい相手だと認識してもらえることにあるからです。

「ビジネス上の力関係を前面に押し出した交渉は、自社に力があるときは良いが、環境の変化が激しいこのご時世、常に強い立場にいられるわけがない。ビジネス上の力関係を前面に押し出した交渉を続けていると、自社が苦しくなったときに、誰も味方になってくれない。そうなると、会社を取り巻く環境は急激に悪くなってしまう。お互いの中長期的な発展を考えて契約交渉などの交渉をする必要がある」という趣旨の発言をしていました。

 

確かに、私自身の直接の経験だけでなく、間接的な経験も含めて、契約交渉を含む取引全体をとおして、長くお付き合いしたいと思う経営者や会社もあれば、今回で終わりにしたいと思う経営者や会社があるのは事実です。

また、実際に、この会社であれば、何かあったときには、出来る限りの支援をしたい、と思う経営者や会社もあります。

したがって、お客様や取引先に中長期的にお付き合いしたい相手だと認識して頂くことは非常に大事だと思います。

 

ただ、「なるべく公平な契約条件となるように交渉することが、会社の方針である。」という発言の方向性は抽象的には理解できますが、個別の案件について具体的に何が「公平な契約条件」なのかを判断することは、極めて難しい気がします。

前述のお話をしてくださった法務担当の方が属する環境には、何らかの業界慣行や事情があって「公平な契約条件」というものが明確なのかもしれません。

仮に、具体的に何が「公平な契約条件」なのかを判断することが難しい場合には、「公平な契約条件」かどうかよりも、①不利な契約条件の後出しはしない(都合の良いセールストークに終始しない)、②交渉に応じれるところ、交渉に応じれないところを(最初からでなくても良いが)早めに明らかにする、③お互いにメリットが生じる代替案をできるだけ多く考える、といった「誠実な交渉を行う」という方針でも、前述の法務担当の方が達成したい目的と同じようなことを達成できるように思います。

 

新型コロナウイルス感染症拡大の影響は自社はもちろんのこと、取引先やそのまた取引にでています。

想像力を働かせて、苦しいのは自社だけではない、取引先もそのまた取引先も苦しいに違いないことに気づきつつ、創造力を働かせて、お互いにメリットが生じる代替案をできるだけ多く考える、誠実な交渉をしたいものです。

 

 

『戦略的交渉入門 (日本経済新聞出版)』

ハーバード・ロースクールで研究されてきた交渉学をベースにして、日本人向けに書かれた交渉に関する入門書です。弁護士さんと法学の博士が書いた本で、契約交渉に応用可能です。