情と理のシンセシス

SYNTHESIS OF HUMANITY & THEORY.

ゼネラルスタッフの役割

ゼネラルスタッフの役割を一言で言うと、「適切な意思決定支援」だと思います。

意思決定権者に適切な意思決定をしてもらうために、意思決定権者に響く発言をする必要があります。

何が響くかは、意思決定権者の資質や価値観によって異なることは良くあることです。従って、何が響くかを理解することは、簡単なことではありませんが、優秀なゼネラルスタッフには必要なことです。

これは、ある会社の経営会議での出来事です。

 

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、取引先に様々なお願いをすることを検討してました。

その中に、下請法適用会社に対して、単なるお願いを超えて、既に締結している契約条件の変更を要請するものがありました。

 

これに対して、法務担当の役員は、次のような発言をしました。

下請法違反の可能性があるため、その要請はやめるべきです。

代替案を提案します。時間をもらえれば、他により良い代替案がないか検討をします。

ここから議論が紛糾します。

 

苦しいのは、当社も同じであり、社員を守るのが会社の役割である。

これまで当社は取引先に対して様々な負担をして、誠実に取引をしてきており、このようなときこそ理解をしてもらうべきである。

新型コロナウイルス感染症の拡大により社会が変化しているにもかかわらず、それを考慮しない法律はおかしい。そのような法律は時代に合わせて適切に解釈されるべきである。

などと言った発言が大半を占め。基本的には、下請法違反の可能性がある要請を行う方向で議論が進んでいきました。

 

法務担当役員は、なんとか下請法違反のリスクを低下させようと説得を試みていました。ただ、スタンスの違う役員が多いため、「法律違反の可能性がある」という理由だけでの説得では難しく、徐々に、説得を諦めるような発言に変わりはじめました。

そうなる気持ちも分かります。

妥協への葛藤もあったと思います。日頃は、コンプライアンス重視と言っているにも関わらず、何故、理解されないのか?そんな戸惑いもあったように思います。

法務担当役員としては、すでにリスクと代替案の提示を行っており、自分が果たすべき役割と責任は果たした、という消極的な諦めモードに入った感じに見えました。

 

経営会議の雰囲気的には、議論がしつくされ、社長の最終判断を待つばかりとなったそのときに、ある管理部門の担当役員が、次のような発言をしました。

リーマンショックのときを思い出しました。

あのときも大変な事態になり、私たちは我慢ができず、多くの取引先に厳しいお願いをしてしまいました。

その結果、その後の回復期に、当社が取引を再開したいと思ったとき、当社との取引の再開は後回しとされ、なかなか取引を再開させることができませんでした。当社の業績の回復は遅れ、苦労したことを覚えています。

もちろん、その時の判断としては、当社の立場からは適切な判断だったと思います。

ただ、リーマンショックを経験した私たちは、今回は、そのときの経験を踏まえて、対応を考えることができるはずです。

 

この発言で、社長は、最終的な意思決定が随分としやすくなったように見えました。

短期的には下請法違反のリスクを回避でき、中長期的には業績の回復が見込めるのであれば、無理な要請を取引先にする必要はありません。

検討されていた要請を行うことで得られるメリットはそれほど大きくなく、会社の財務状態にはまだまだ余裕があります。

以上を踏まえると、下請法違反のリスクのある要請は行わないという適切な意思決定ができたと思います。

 

下請法違反のリスクという発言だけでは社長に響かないのであれば、このような時期に取引先に下請法違反のリスクのある要請を行うことで、取引先とのビジネス関係がどうなってしまうのか、その展開を具体的にイメージできる形で説明する。そうすれば、下請法違反のリスクという観点からも、意思決定権者に響く発言ができた可能性はあります。

 

ゼネラルスタッフの役割が「適切な意思決定支援」を行うことであれば、下請法違反のリスクという発言だけでなく、リーマンショックのときの経験など、今後の業績にどのように影響するのか、未来に責任を持つ社長に響く発言をすることも必要なのだという貴重な体験をしました。

 

実際に、一人の人間が様々な観点から検討を行い、意思決定権者に響く発言を行うことは難しいと思いますが、適切な意思決定ができるように少しでも意思決定権者に響く発言をしていきたいですね。

 

 

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