情と理のシンセシス

SYNTHESIS OF HUMANITY & THEORY.

経営理論について

「経営理論は、役に立たない。」

よく聞く言葉です。

その理由として、以下のようなことが言われています。

  1. 「有名な経営学者が経営者になった会社が倒産した。」*1
  2. 経営学は後追いの学問である。」
  3. 「理論と現実は違う。」

これらの理由について、少し詳しくみていきます。

 

1. の理由が「経営理論があれば、すべて上手くいく。」という主張への反論であれば、適切だと思いますが、問いは「役に立たないか?」であり、問いへの反論としては不適切です。
理論があっても実践がなければ、会社が倒産してしまうのは自明のことであり、そもそも「経営理論があれば、すべて上手くいく。」という主張ではありません。 

2. の理由は、要するに、「経営理論は、ビジネスの成功を事後的に論理化しただけある。現実のビジネスは、はるかに動きと変化が速い。従って、経営学はそれを後付けでしか説明できない。」ということかと思います。
おそらく事実としては、そのとおりかと思います。特に、最先端の現実のビジネスとその理論が形成される過程の説明としては、正しいと思います。
しかしながら、だからといって、「役に立たない」となるのでしょうか。
この事実からは、「役に立つ場合もあれば、役に立たない場合もある。」という説明は導かれますが、「役に立たない」とまで言い切ることは難しいように思います*2

3. の理由は、要するに、「理論と現実は違う。現実は理論どおりにいかない。」だから、「役に立たない」ということかと思います。
これについては、「理論と現実」が違うことはそのとおりだと思いますが*3、だから「役に立たない」というのは論理の飛躍です。
したがって、「現実は理論どおりいかない」といことを言いたいのだと思います。そうだとすると「現実は理論どおりいかない」理由が、「理論」そのものの問題なのか、それとも「実践」の問題なのかを明らかにする必要があります。

①経営理論を正しく理解し、②当該経営理論を適用すべき適切な場面において、③経営理論を正しく実践できた場合に、効果を発揮しなかったのであれば、「理論は、役に立たない」ことになります。
また、④理論を正しく実践することが現実的でない場合にも、「理論は、役に立たない」と結論づけることができます。

 

以上を踏まえると、「経営理論は、役に立たない」と言い切ることは難しく、また、少なくとも、上記②の「当該経営理論を適用すべき適切な場面において」という条件が加わるならば、「経営理論は、役に立つ場合も、役に立たない場合もある。」という説明をすることが正しいように思います*4

「ある経営理論が、役に立つ場合とはどのような場合で、役に立たない場合とはどのような場合なのか」をできる限り明らかにしていくことが重要です*5

*1:江口克彦(2017)「一流の経営者は「経営理論」を振りかざさない」

*2:入山章栄(2019)『世界標準の経営理論』pp12では、ロナルド・コースの「取引費用論」(1937年)、ジョージ・アカロフの「情報の経済学」(1970年)、マーク・グラノヴェッターの「弱いつながりの強さ理論」(1973年)、ジェームズ・コールマンの「ソーシャルキャピタル」(1988年)などの理論は、現在のビジネス現象を説明できるとしている。

*3:「理論」は「現実」を抽象化したものですから、「理論」と「現実」とが異なることは明らかです。

*4:「社会科学」である経営や戦略の理論は、一定の条件下であれば、いつでも、どこでも、どんな文脈においても成り立つ再現可能な一般性の高い因果関係を持つ「自然科学」における法則ではありません。そう考えると、当たり前のことです。

*5:役に立つ場合と役に立たない場合との区別が難しく実務への応用が現実的でない場合には、当該経営理論は役に立たない、という評価にならざるを得ないと考えます。